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栗の裏情報⑩ 農薬どこまで減らせる?

日本の耕地面積における有機栽培(化学肥料、化学農薬、除草剤を使用しない)の畑の割合は約0.2%しかないのが現状です。

世界と比べると、その少なさは歴然です。

 

主な作物別に見ると、野菜0.2%、米0.15%、果樹0.05%…

 

果樹のように長い生育期間を要する農作物ほど、やはり病害虫による被害を受けやすい。

農薬を使わないと商品化率が大きく下がる農作物が多く、

りんごやももなどにいたっては、出荷金額の減益率が80%を超えると言われています。

 

私自身、就農3年目から「目指せ無農薬」で様々なことに取り組みました。

栗園の端っこを実験ゾーンに設定して、

農薬の代わりに木酢液、ニームオイルなど天然由来の忌避剤を試しました。

 

3年間一定の成果を確認できたことで、

6年目の2011年、晩生品種に限って栗園全面的に農薬を止めて忌避剤に切り替えました。

 

結果、

早生品種と中生品種の商品化率が80%に対して、

晩生品種は50%でした。

 

晩生だけで2トン収穫して、1トン病虫被害が見つかりました。

例年通りなら80%の1.6トン商品化できてたはずが…

 

最後の選果で被害果を外しているだけで、

1年間の栽培経費、収穫&選果の人件費は同じように費やしています。

必死こいて栽培して、住み込みアルバイトもたくさん雇用して、

いざ拾い集めた栗を半分ゴミ箱行きにしてしまいました。

 

ちなみに、この2011年。

私は1月に結婚して、翌2011年1月に長男が誕生しています。

東京から田舎の農家に嫁いできて、秋は妊婦だった嫁さんにとんでもない不安を与えてしまいました。

子供が産まれる物入りの時だというのに。

この年の所得は前年の半分に落としました。

いきなり嫁子供を養う資金が足りなくなり、嫁さんの貯金を切り崩してもらいました。。。

「農家の嫁は止めておいた方がいい」と心配してくれた周囲の声を押し切って嫁いできてくれたのに、

本当に迷惑、心配をかけました(今もですが)。

 

 

今思えば忌避剤だけで病害虫を簡単に防除できるなら、

もっと日本中で無農薬が広がっているはずですね。

農業、そんな甘いもの、容易いものじゃなかったです。

 

 

今現在、私は農薬を使用しています。

必要最少量の超減農薬です。

必要量以上の無駄な散布を一切省くようにしています。

 

8年間かけて、

私の栗園全体でメーカー使用量基準(石川県の栽培基準も一緒です)の20%以下にまで抑制できるようにはなりました。

 

栗の農薬散布量基準は10アール辺り平均400500リットルです。

私の栗園では100リットルも使用していません。

 

 

そもそも、どうして無農薬、超減農薬で栽培したいのか?

 

  微生物、ミミズを殺したくない。

 

私が果樹農家として独立する前、研修中に何件かの栗農家さんの農薬散布作業を見学しました。

気になったのは散布の仕方より、散布の量。

1本の樹に対して随分と長い時間、入念にかけていらっしゃいました。

そして、そのほとんどが地面にポトポト落ちていました。

樹の真下は雨が降っているようでした。

気になって調べると、

作物にかかっている農薬は2割程度で8割は地面に落ちていると…。

そして、少なからず土壌中の微生物を減らしていると…。

 

私の場合、化学肥料を持ち込ます、

せっかく土作りで有機物還元して微生物、ミミズを増やそうと努力しているのに、

自分の撒く農薬でその数を減らすのは何とか避けたい!

 

 

  自分自身の身を守る

 

昔、ネオニコチノイド系と言われる毒性の強い農薬を使用して、

その晩、とんでもない痒みに襲われ、しばらく皮膚科通いしました。

今はできるだけ、毒性の弱い、残効期間が短い薬を選ぶようにしています。

 

 

  うしろめたい販売をしたくない

 

研修中にマルシェでの農作物販売体験に参加しました。私はリンゴ農家さんのブースに入れて頂きました。

ふと見ると、リンゴの頭のくぼみの部分に白い粉が付いていました。

農家さんに聞くと「あっ、農薬」と言ってティッシュで拭きとってまた売り場に戻しました。

 

これも怖くなって調べました。

残留農薬の安全性は散布量と比例します。

ある農作物に使って良いと登録された農薬を、どのくらいの量で、どの時期に、どのような方法で、何回までは撒いて良いなどと決めたものが使用基準です。

この使用基準に違反しなければ、残留基準を超えるような農作物は出来ません。

つまり、生産者が使用基準をもとに適正に農薬を使っていれば、不安になるような残留性の問題はないです。

 

散布量が少ないほど残留性も減るので、とにかく必要最小量を心がけています。

 

 

では、農薬使用量20%以下にまで抑制できた理由。

 

  低樹高栽培に切り替え。

 

今、私は能登町内で3ヶ所の栗園を栽培管理しています。3ヶ所すべて地元のおじいちゃんから引き継いだ畑。

引き継いだ当初はどの樹も7~10mぐらいの樹高でした。

その高さに農薬を届かせようとすると、

水圧、吐出量MAXにしないと散布できません。

やっと頂上部に到達してもイガにかかるのは2割。8割は土壌汚染です。

今、私の栗園の樹高はほぼ5m以下。

水圧、吐出量抑えても楽々届きます。

 

 

  ホースで栗のイガを的確に狙い撃ちして散布する。

 

多くの果樹農家はSS(スピードスプレイヤー)という乗用散布車を持っています。

一度にたくさん散布できるし、歩かなくていいのでとても楽で能率的です。

でも、ピンポイントの狙い撃ちはできません。

狙ってもホースほど上手にコントロールできません。

結果的に数撃てば当たる方式で、必要以上の農薬を撒き散らすことになります。

 

私はとにかく農薬を土壌にポトポト落としたくない!

吐出量抑えて丁寧にホースで必要最小量をイガにササッとかけています。

 

 

  ノズルを替える。

 

家庭や飲食店等のノズルを替えるだけで5090%節水商品が話題になっています。

テレビでそれ見て調べました。

ちゃんと農業用にもあり、即取り寄せました。

昨年まで栗園3ヶ所5ヘクタールで1回5,000リットル撒いていたところ、

今年、ノズルを替えただけで1回4,000リットルに抑えられました。

 

 

 

  化学肥料を止める。

 

弱った樹ほど病害虫被害を多大に受けます。

抵抗力が働いていないためですね。

樹を健全にたくましく育てる。何だかんだ言ってもこれが一番大事です。

 

化学肥料はサプリのようなもの。

サプリだけの食生活で健康体になれるでしょうか?

 

有機栽培の農地では落ち葉や動物の糞尿などの有機物を土中の微生物が無機物に分解し、

それを肥料に作物が育ちます。

しかし化学肥料は分解されることなく植物に吸収されるため、

エサとなる有機物を失った微生物は死滅してしまう。

微生物のいない土壌では植物病原菌や病害虫が繁殖しやすくなり、

それがまた農薬の使用を招くという悪循環に陥っています。

 

 

 

散々偉そうなこと言ってますが、

減農薬と無農薬は全然レベルが違います。

 

農薬を減らせば減らすほど病虫被害のリスクは当然高いです。

ただでさえ、農家は自然被害のリスクを抱えています。

台風、干ばつ、大雨、雪害、凍害…

そこを乗り越えながら自分たちが生活できるだけの収穫量を確保しなければいけません。

 

それでも無農薬に挑戦されている農家さんが日本国内で0.5%います!

土作りから栽培管理、作物にかける手間…とても簡単には真似できない苦労をされているはずです。

農家のはしくれとして心から尊敬しています。

私はまだまだ勉強が足りません。

 

 

最後に、もうひとつ苦い思い出話をします。

独立初年度、農薬使用量を半分にしました。

何か付加価値が欲しい。農薬半減と言いたい。ただそれだけの理由です。

 

農家になって初めての販売。

家族、親戚、友達、昔の会社の同僚…知り合いという知り合いに営業メールを送りました。

 

そこで買ってくれた元上司からメールが届きました。

「焼き栗食べたよ。

美味しい物とそうでない物。

結構バラつきがあるね。

正直、俺からのリピートはもうないな。

食べられない物がいくつか入っていました。

これ、俺だけ? だといいんだけど。」

 

罪悪感、恥ずかしさ、食品販売の怖さ…色々な感情が一瞬で押し寄せてきました。

この愛あるメールをくれたのは、この元上司1人だけです。

でも、この年買ってくれたお客様全員がそう感じたはずです。

同じ選果基準で商品化していたので。

 

「お客様に損をさせてはいけないよ」

研修生の時、そう教わったのに。。。

 

当時、本当に無知でした。

クリシギゾウムシ、実炭そ病の存在も。その選果方法も知りませんでした。

慌てて調べて、県の農業試験場に選果方法を教わりに行って、その後再選果しました。

次々とクリシギゾウムシの産卵果実が見つかりました。

割ってみると、何個か栗の中に幼虫が潜んでいました。

 

ひどい商売をしてしまった。。。

めちゃくちゃ落ち込みました。

本当に申し訳ないことをしました。

 

 

無農薬、減農薬の農家は病虫被害率が高い。

だからこそ、選別の基準、手間に人一倍労力をかけなければいけない。

大事な教訓を学びました。

 

 

周囲には燻蒸を勧められました。

というより、「栗は燻蒸しないとダメだぞ」と言われました。

収穫後の栗を薬品漬けにして卵から幼虫への孵化を抑える方法です。

炭そ病の進行も抑えられます。

減農薬でやりたいんだったら、なおさら燻蒸が必要だと言われ続けました。

 

そこに関しては、一切聞く耳持ちませんでした。

味、品質が落ちること分かっていたので。

 

 

最高の味を目指したい。

でも、変な物を売ってお客様に損をさせたくない。

 

意地でもクリシギゾウムシの卵を全部見つけ出してやる!

覚悟を決めました。

 

今は独自マニュアルを作って、45日間熟成用の選果を行っております。

 

 

いつか私が死んでも栗園の農地と栗の樹は残ります。

できるだけキレイな畑と健康体の樹を次世代に残したい。

20%に満足せず、常に農薬を減らす方法はずっと探っていきたいです。

選果のレベルも。

 

 

 

貴重な時間を割き、お読み下さいましてありがとうございました。